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(RDTA)
救助犬訓練士協会:大島かおり
2006年6月16日
≪ 猿追い犬の訓練方法と追い上げの結果についての報告 ≫
宮城県仙台市において2005年11月12日(予備調査)、同年11月30日から12月6日(第一回追い上げ)、
2006年2月16日から18日(第二回追い上げ)でのサル追い犬の報告である。特に担当犬の「ガク」を中心に
報告する。
(※〜群と書いているのはサルの群れの名称です。その群れを対称に追い上げを行った報告です。)
■ 11月12日:奥新川A1群
宮城のサル調査会の案内でサルと遭遇。実際に見たサルの行動はこちらの想像とは違った。猫などの小動物のように地上を走り、犬の視覚である程度追えるものと予測を立てていたが、「物陰に潜む」「隠れたところで様子を見る」「木の上に上がる」など行動が多く、犬の視覚では見失うことが多かった。また臭気に関しては、実体と反対方向に流れた臭気を捕らえたり、サルが通りすぎた後の残臭を追うなど、サルを追い上げたい方向に犬たちが進むというより、それぞれの犬たちがまとまらない走り方をしていた。また起伏の激しい地形に翻弄され体力を消耗し(犬の体重のコントロールが悪かった)目的意識を持続できない犬、そして依存性が高い犬たち(参加犬のほとんど!)は人の動向を気にして自主的にサルへ向かえないなど燦燦たる結果であった。
何よりも犬たちはサルそのものに対しての捕獲欲が出ていなかった。
然しながらサルは警戒音を発しながら移動しており、その後何日間は現場に現れなかったとの報告を受けた。
・その後の反省
もっとアップダウンの激しい地形を使ったダミー訓練を行うべきと考え秦野市の山を利用した練習を繰り返す。また、
村瀬訓練士の判断により生きたサルを仙台市より借り受け、檻ごしに犬と対面させ、生きたサルに慣れる、意識を向
ける練習を行う。
■ 11月30日:秋保B群
テレメトリーでサルの位置を確認するものの、肉眼では確認できなかった。追い上げの方々と一緒に秋保植物園に入って
ゆく。進むほどガクは臭いに反応し興奮し始める。しかしここで調査会と犬たちは電波の取れる方法に向かうことにした。
最初の関門は川であった。また予測していなかった。案の定、犬たちは川を渡ることを拒絶している。ラブラドール犬種と
比べても、シェパード犬種は水が苦手な犬が多い。なかば放り込むような形で川を渡らせ、次に崖を登る。ここでまた自信
を失った犬たちは人を頼り、人の移動に寄り添う形で、人の助けを借りながら山の斜面を登った。
途中、一旦平らになったところでガクが盛んに鼻を上にあげ、臭いをとり、ウロウロし始める。おそらくサルの臭気と思わ
れる。移動した後の残臭か、山の斜面を流れてきて平地になったところにたまった臭気かわからないが、あきらかに木の上
を探し、それまでとは様子が違った。
その後も斜面を登り、もう少しで尾根というところまで登るが、そこでサルがいると予測される方向へ花火を放ち、ガクと
キュウを促してなんとか吠えさせ、斜面を降りる。
犬たちは、先ほどと違い川の渡りが少しスムーズになっていた。何事も経験である。
■ 同日:高倉山
伊沢教授の導きにより、あまり人馴れしていない高倉山の群れに遭遇。
ガク(S犬)をつれて対岸より暫し様子を見る。ガクはサルの臭気を取り、視覚でとらえ、興奮し、咆哮始める。
リードを放すと、午前中に嫌がっていた川を自ら渡り、斜面の上り口を捜し走り回る。続いてキュウを含むラブラドール
5頭は高嶋、田中と一緒に川を渡り、群れに向かって左側から頂上に向かって出した。キュウはかなり反応していたよう
だが、ラブラドール群はある程度まで行くと登れなくなった。
ガクは臭気、視覚そしてサルの時々発する警戒音に導かれ慎重にゆっくり(多少不器用だ)ではあるが、登り続ける。サル
も登ってくる犬を見て、とまどいながら(?)徐々に移動している。私たちは対岸で、テレビで見るがごとく観察できる。
面白い。
そのうちサルを視覚で捕らえたのか、スピードを上げて登り、山の反対側に回り、姿が見えなくなった。その後ガクの
咆哮が聞こえる。えらい!伊沢教授の指示により犬の応援も含め、花火を放つ。少しして姿を見せたガクを呼び戻す。
下に降りたガクはかなりの疲労である。シェパードのような35kg以上の犬、サルのように前足(手?)で物をつかめ
ない犬にとってこの斜面を登るのは本当に大変だっただろう。しかしガクは目的をしっかり捉え、自ら登り、達成感が
あった。追従で登っていた午前中とは違った。
ガクにとって大きな一歩だった。
■ 12月1日:秋保A群
元レジャーランド「一休山」の近くに電波の反応ありということで集合する。市の職員の方がさかんにテレメトリーで
探している。そのうち伊沢教授がサルの群れを発見する。(このサルの群れを発見することが、いかにすごいことかをだ
んだん認識する。)
山の向かい斜面にサルの群れがいるのを肉眼で確認。何かを食べているサルもいれば、数頭で遊びのような所作をしてい
るサルもいる。実に幸せそうだ。
向かい斜面にて犬達をつれて待機する。風がサルから犬達の方に向かって流れている。ガクやキュウたちが反応し始める。
猟友会や他の方々との連携で、犬グループは左から回りこんでサルを追い上げる形になり移動する。そのうち3〜40m先
であろうか尾根を1匹のサルがゆっくりと四足で歩いている姿が目視できた。
犬を放すように指示が出された。しっかりと前方を意識させたつもりだった。もっと視覚で捉えることを確認して出せば
良かったのだが、ガクの意識は先ほどの群れにあり、前方のサルとは反対方向に走り出した。犬グループを離れ、ガクを
追い、尾根つたいに歩く。暫くして先ほどサルの群れがいたところから、ガクが上がってきた。そのうち反対側の沢から
風が上がった。ガクは一瞬臭気を嗅ぎ、一気に風上に向かって沢を下りだした。ガクが走っていった方向からサルの警戒音
が聞こえるが、犬との関連性は解らず。猟友会、市の職員、調査会、多くの人達が山にはいっていた。ガクはその後、先に
行っていた犬グループに回収され、一旦山を降りた。伊沢教授たちはそのままサルを追い続け、群れを1Kmほど移動させる
事に成功した。
■ 12月2日:奥新川A群
この日の追い上げは混迷を期した。また場所が変わることにより参加するメンバーが若干変わる。それぞれのコミュニケー
ション不足を感じる。そして人馴れが進んでいるこの群れの動きはいくつかの予想を裏切った。
お昼近くに放たれた犬はただ山の斜面をウロウロ走るだけだった。ひとつ変わったのは当会の若いハンドラーが、犬の為
にこの作業を行い出した。(前日多少説教した。)彼らは熱心に犬を応援しながら山を走り回った。午後みんなでもう一
度山を登るが、期待した成果には繋がらなかった。
ガクはさかんに下の臭いを嗅いでいる。サルの足跡臭でも残っているのだろうか。
犬グループは他の方々が降りたあと、昨日から考えて追い上げ作業中の犬の達成感が不足しているので、ダミーを使って
そのまま練習する。
■ 12月3日:定義の群れ
伊沢教授の計らいで始めて犬を中心にした追い上げを行う事になった。あまり人馴れしていない、発信機をつけていない
群れである。しかし積雪もありサルを見つけやすい状況だそうだ。雪に残るサルの足跡や尿の後をたどり、姿を確認する
まで伊沢教授、調査会の方がたが暫く動き回る。対岸(また川!)の山の斜面にサルの姿を発見。河川敷に降りる。対岸
のサルはこちらを発見し様子を見ている。犬たちが興奮し始める。できれば上流の浅瀬を渡らせたかったのだが、サルに
近いということで渓流の厳しいところからガクを投入する。無理だと思った。やはり泳ぎきらない。無駄な体力を使わせ
ている。上流に移動しガクを対岸へ渡す。サルのいる崖の下まで行き、ガクはサルに向かって吠えていたが崖を登ること
はできなかった。サルは堂々としている。犬が登って来られないことを理解すると、ガクに向かって威嚇し始めた。少し
腹が立った。
その時、後から渡ってきたラブラドール群のキュウと田中が崖を上がり始めた。一気に駆け上がるキュウにも感動したが、
応援で一緒に登っていった田中、高嶋にも感動した。他のラブもついてゆく。キュウは崖を駆け登り木の上にいるサルに
向かって吠え続けた。キュウはこれまでの練習の積み重ねが一気に開花した状態だった。その後別な斜面から上りだした
ガクは尾根つたいに逃げてゆく群れに向かって吠えている。視覚でもかなり遠いところのサルの動きを捉えているようだ。
キュウはまだ吠え続けていた。調査会の宇野氏らが斜面を上がっていった。ガクだけ1度戻ってきた。興奮冷めやらぬ様
子である。暫くして発砲音が5発。再びガクと斜面を登ると宇野氏が撃ち落したサルがいる。宇野氏の協力を得て、なん
とかガクとキュウがサルをくわえることができた。それぞれの犬たちが満足している。定義の群れは、私たちが望んでい
た「最高の達成感」を犬に与えられた追い上げとなった。すごい一日だった。
撃ち落されたサルに哀悼と感謝の意を表して。
■ 12月5日:奥新川A群
2グループに分かれて猟友会の方々を先頭に民家の裏手の林道より入ってゆく。林道入り口より臭気が強く、犬たちは
興奮する。すぐにサルの姿は確認できたが、猟友会の人が発砲する。ガクは動くサルを見て興奮が最高潮に達している。
リードを持っている手が痛い。「犬を放して!」との猟友会の人の指示。私もそうしたい。しかし犬に弾があたらないと
いう保障がない。犬グループの判断により、リードは最後まで放さなかった。
結局この日は、午後の追い上げも含めて犬は放さなかった。臭気を取ったガクたちはただ興奮しているだけだった。
・その後
ガクは生きたサルに対してかなり執着するようになった。訓練所のグランドで、「管理しているサル」の臭気を掴んだだ
けでも、興奮して探すようになった。
また、ダミーを使って斜面を上がる訓練を長野の山を利用して行った。
■ 2006年2月16日:奥新川A1群
小学校裏から入ってゆく。あちこちに足跡があるらしく、地面を嗅ぎ興奮している。下から行くグループを上で待ち伏せ
するグループに分かれる。途中、くぼ地になっているところの道路に入ると興奮して臭気を地面近くからさかんに取る。
臭気は流れて吹き溜まりのように低いところへ集まるときがある。おそらくサルの移動の残臭か、近くにいる個体の臭気
が流れてきて溜まっているのか。
電波でサルを確認する方法、足跡や尿、便の後から探し確認する方法、私たちは犬の臭気の取り方を見てサルを確認する。
■ 同日:奥新川A2群
この群は、犬の鼻を使ってサルの群れを確認するのにうってつけの状況だった。崖の下に潜んでいたサルの群れを、上か
ら入る事ができたガクは、臭気を取り(通常、臭気は上に上がる)一気に崖を下り、潜んでいたサルに威嚇して吠え出した。
音を発しながら、群れは移動し始めた。ガクの姿は確認できないが、ずっと咆哮だけが聞こえていた。一箇所ではなく走り
回っているようである。猟友会のかたも発砲始めた。少しドキッとする。
ひと、発砲、花火、犬、かなりの圧力をサルにかけたようである。サルは当初渡らないだろうと予測されていた渓流を渡っ
た。
■2月17日:奥新川A2群
同日:奥新川A1群
2月18日:二口の群れ及び大滝B群
こちらに関しては、ガクだけを当会の高嶋、田中に託し、私(大島)は神奈川へ戻った。後日報告でガクが17日走り回った事を
聞いた。せめて回収した時にガクを褒めてあげたかった。
18日にはすっかり士気がなくなっていたようである。あたりまえである。16、17日と2日連続、達成感が無かったの
である。3日間の追い上げ作業の中で、最終日に人家で飼われていた犬の残したご飯を食べたことが、ガクのご褒美となった。笑えるような笑えない話だ。
■ 追い上げについて
追い上げは数回の作業ではなく、1年を通して数十回から百数十回行い、それを何年か繰り返してしっかり群れを山奥に
定着させる作業と認識している。多くのひとびと、銃や、花火の圧力、そして犬の圧力。犬もこの壮大な計画のひとつの
パーツと思う。これは救出活動時の救助犬作業と同様である。なによりも犬が全ての答えを出すのではなく、大勢の人、い
くつかの救助パーツが機能的に動き「ファイバースコープ」で発見される事もあるし、「救助犬の嗅覚」によって発見され
る事もある。いろいろな力が良い形で発揮されて1つの救出となる。
まずは、当会の反省でもあるが、ハンドラーが回りの期待を意識しすぎて、犬たちに多大な効果を求めすぎた傾向があっ
た。作業中適切な対応をせずに犬の変化を良くも悪くも見失っている部分があった。追い上げ参加も犬の猿追い訓練から見
るとまだまだ途中段階であり、最終的な大きな結果を求めるより、少しずつのレベルアップ、成果を犬たちにもたらせる様
にハンドラーが考えて行うべきだった。
また2月16日の奥新川A2群のように圧力の掛け方も良く考えるべきだった。人、銃器、花火、犬とあまりにも圧力が
強く、上流にそのまま移動するものと予測していたサルたちが川を渡ったときはもっと早い段階で「犬」という圧力を呼び
戻しても良かったのかもしれないと感じた。
今後はサルに対して狩猟欲をもった威圧力のある迫力のある犬と、リーダー犬(メス犬が良い)を作り、群れて軽く走れる
犬たちのグループの育成にトライしてみたいが、後者のほうは当面は犬探しである。
■ 最後に
最初に伊沢教授から「追い上げ」の話を頂いたときに「自然の中で動物が発揮する力は素晴らしい。犬もきっとそこで
凄い力を発揮するはずだ。是非それを体感して欲しい」言われ、その言葉に惹かれ猿追い犬訓練を始めました。
人社会の中で管理され生きてきた犬が宮城での数日間の間に、自然界のサルと対峙し想像していなかった力を発揮するようになる
変化は圧巻でした。
以下、下記の方々に感謝いたします。
帝京科学大学 伊沢教授
藪田講師
宮城のサル調査会 宇野氏
藤田氏
帝京科学大学学生
宮城県仙台市職員の方々
仙台市地元猟友会の方々
救助犬訓練士協会の方々
定義
そして、そのほかご協力いただきました方々、どうもありがとうございました。
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